ローデッド式デヴォンクラッチ

映画ファン最後の良心デヴォン山岡が映画を楽しみまくって感想を書きます。

ホラー映画の最先端にして最高峰、『来る』が来る!

「く~る、きっとくる~」

なんていう曲が主題歌のジャパニーズホラーの大傑作『リング』(1998年)で、すでにこの作品の出現を予言していたのかもしれない。

古くから言い伝えられる田舎の邪悪な物の怪「ぼぎわん」に取り憑かれてしまった家族が、その呪いをなんとか祓うために奔走するという、よくある設定のホラーであった。

 

序盤は。

 

しかし、この物語は化け物に取り憑かれて悲惨な目に合うだけでは終わらない。

なぜなら「それ」は、関わった人間の負のパワー、嫉妬や不満や不安や憎悪などの感情をエネルギーに、その邪悪パワーを増幅&増殖させるという超絶厄介なおばけなのであった。

つまり巻き起こる怪異はじょじょにエスカレートしていき、とてもじゃないが軽薄を絵にかいたようなチャラ男の主人公、妻夫木聡くんには太刀打ちできない。

そんな「この呪い、誰かなんとかして」といった、ワラをも掴むような状況で現れるのが小松菜奈のキャバ嬢霊能者。

2018年、俺がもっとも感動した青春ムービー恋は雨上がりのようにでは中年オヤジに恋する女子高生を清楚かつ儚げに演じた小松さんが、今回は金髪キャバ嬢というそのキャラクターの振り幅に悶絶せずにはいられないわけだが、よく考えたら小松菜奈の長編デビューは同じ中島哲也監督の『渇き。』なのであった。

あれも強烈な女子高生の役だったので、やはり小松さんにはそういった異質なオーラを持つ存在みたいな役が合っているのかもしれない。

 

とにかく、取り憑かれた者の周囲で起こる怪異と呪いをめぐるミステリー、そしてクライマックスの化け物VS霊能者のバトルまでを怒涛のハイテンション展開で描く中島哲也監督のパワフルな演出が凄い。

呪われまくり、人死にまくり、血しぶき飛びまくり、毛虫うごめきまくりの衝撃ショック映像が、ポップなBGMと軽快なカット割りでドカドカ飛び出し、わーわー言っている間に上映時間2時間が過ぎてしまうという圧巻のホラーエンタテインメントになっており、間違いなくこの作品はジャパニーズホラーの最高峰であり最先端でもあるのだ。

 


リアリズムと虚構の絶妙なバランス



物語はオバケに狙われた夫婦(妻夫木&黒木華)、その親友(青木崇高)、霊能者(小松)、オカルトライター(岡田准一)を中心に展開。

前半は、絶望的に世間体だけを気にするリア充夫の妻夫木と地味で無口でストレスを溜めがちな黒木との、壊れかけた夫婦生活が描かれるわけだが、このチャラ夫の妻夫木がもうダメすぎて笑ってしまう。

仕事先やSNS上で「イケてる旦那様」を演出して、いわゆる「映え」重視の投稿してみたり、イクメンアピールしてみたりで周囲から尊敬されているんだけど、いざ家庭の中では子どもほったらかし、家事まったく手伝わない、身重の奥さんもいたわらないでもう最低。

世の夫連中が「どこの俺だよ!」と口を揃えて言ってしまいそうなリアルダメ男だ。

さらに、そんなダメ亭主に愛想を尽かして、溜まったストレスを愛娘に向けてしまう悲惨な奥さん。

見ているのがつらすぎるほどの崩壊直前の家庭に、少しづつ「それ」が侵食していくといった流れが、まさに今そこにある現代社会の闇”といったリアリズムで描かれているのだ。

 

妻夫木の空っぽ感ある軽薄チャラ演技が本当に素晴らしい。

こいつが「それ」の呪いに悩まされる姿が、怖くもあり、同時にもうこのダメ亭主は死んで良し!とか思わずにはいられないほど自業自得感に満ちていて困る。

また、奥さん役の黒木華は、疲れた主婦のダークな雰囲気を出しつつも、だらしないエロさも同時に醸し出していて、そのへんも生々しくてリアルだったりする。

こうした “終わりかけの夫婦関係” のリアル描写の中に、極めて映画的でド派手な怪現象がブチ込まれるわけで、そのバランス感というか、もっと言っちゃえば強引さ、大胆さがこの作品に漂うスピード感の要因なのであろう。

霊能者のキャバ嬢とオカルトライターの凸凹コンビが現れてからの展開は、とたんにファンタジー味が増してテンション共々盛り上がってくるわけだが、やはりそれは前半の社会的闇案件のリアルな描写によるところが大きいんじゃないかなと思った次第。

 

そしてこの物語、中盤以降でまたも様子が変わってくるから面白い。

最強霊媒松たか子が登場し、事態はますます深刻かつ危険かつバカバカしさを帯びてくるのだ。

 

 

 今世紀最大級の除霊シーンが凄い

 

最初でも触れたが、この作品における怪異は『リング』や『呪怨』などとはレベルが違う。

敵は、人々のストレスを喰らいながらパワーアップし、邪魔する者はことごとく物理的に惨殺してしまう化け物(というかもはや怪獣)なのである。

よって、追い払うためにはそれ相応のパワーを持つ存在が必要。

ってことで登場するのが、人間界最強の松たか子さん。

つまりクライマックスは、強力になった「それ」を『コクソン』の500倍の規模でエクソシズムするという圧巻の霊媒スペクタクルが展開するのだ。

 

このへんになると、もう前半のリアルさとは真逆のスケールでブッ飛んだシークエンスが連発。

松たか子マンガみたいなキャラクターも相まって、その物語は異次元の面白さへと変貌していく。

 

いやー、ほんとホラー映画なのにアクション映画を観ているみたいに目まぐるしくて疾走感が凄い。

中島哲也監督の作品はもともと、どんなジャンルであろうとハイテンションな展開と大胆で濃厚な画作りが特徴だが、ホラー映画ですらここまで豪快にエンタメしてくれるとは思わなかった。

しかも、ちゃんと怖いから凄い。夜中に思い出してブルっとくるほどこの作品は怖いのだ。

 

まとめ

ホラー映画の常識をまたひとつブチ破ってしまった本作。

もちろん原作そのものが非常に素晴らしいホラー小説なのもあるが、やはりここまで盛大なエンタメとして映画化してもその恐怖と忌まわしさをキープさせている中島哲也監督の作品作りの的確さには尊敬しかない。

先読み不可能のザッツ・化け物エンターテインメントホラー『来る』は、間違いなくジャパニーズホラーの歴史を変える傑作であり、今年もっとも観るべき映画の一本である。

ホラー好きならば、なにがなんでも観ろ。