『イエスタデイ』は、自分がどれだけビートルズが好きだったのかを思い知らされる映画どぁ!
ビートルズのいない世界。
そんな悲しくも味気ない世界がもしあったとしたら、音楽は、カルチャーは、人類はどんな未来を歩んでいたんだろう。
ビートルズが存在しないということは、当然のように音楽界にビートルズの影響が無いということになるので、ポップスもロックも、なんならソングライティングのスタイルさえも今とはまるで違っている可能性も捨てがたい。
この映画の凄いところは、そのへんを妥協しないところで、つまりビートルズがいないってことはオアシスもいない。
ビートルズのスコアbookが売っていないので、きっと若者はギターを始めようと思わない。
そんな容赦のない世界観なのだ。
何を隠そう、俺ですら中学生時代にギターを始めたきっかけはビートルズで、発狂しそうになりながら必死で「In My Life」を練習した記憶がある。
俺にとってビートルズは初めてづくしの存在だった。
初めてバンドメンバー全員の名前を覚えたのはビートルズだし、初めて演奏とソングライティング両方をこなすバンドとして意識したのもビートルズ。
音楽は聴いたり演奏するだけじゃない、自分で作ってもいいんだ! という発見があった。
俺だけでなく、多くの音楽好きがビートルズによって大きな感動となんらかの閃きを授かっているであろう。
『イエスタデイ』は、そんなビートルズの存在を誰も知らない世界に来てしまったミュージシャンの話。
しかもそいつが、じぇんじぇん才能が無くて、見た目も冴えなくて、根はいいけどダメダメな感じで、そろそろミュージシャンの夢を諦めようとしている男なのである。
目が覚めたら、ビートルズを知っているのは自分ひとりだけ。
どうする?
愚問である。
そんなもん盗作するに決まってる!
世間を熱狂させるビートルズの鬼楽曲が凄い!
現代人がもし初めてビートルズを聴いたらどんな反応を見せるのだろうか。
そんな不謹慎な好奇心を満たしてくれる、売れないミュージシャン【ジャック】の華麗なる盗作劇。
「Yesterday」、「In My Life」、「Let It Be」と、名曲中の名曲を大胆かつ堂々と「これ、俺の曲」などとノタまい披露していくジャックのふてぶてしさたるやギネス級。
神をも恐れぬ悪魔の所業であるが、それが痛快で微笑ましいから困ってしまう。
あっという間に人気ミュージシャンのエド・シーランに目ざとく発見され、彼のライブのオープニングアクトをゲット。
つーか、エド・シーラン君、映画に出るときいつも本人役だからウケる。
そんな感じで、ビートルズの奇跡のメロディは遂にジャックの作品として世間に知られることになるわけだが、もう当然のように音楽業界が震撼しまくる。
ビートルズの楽曲の凄さは、その完全なるメロディラインと、さまざまなジャンルの音楽を取り入れて生み出された独創性。
それは、誰がどの時代に聴いてもやはり革命的に素晴らしいのだ。
結果、ジャックがビートルズの楽曲でド派手に売れてしまうわけで、天才降臨! なんて持ち上げられたりして、おいおいこれどうなっちゃうの? というスリルとサスペンスで先読み不可能な展開が待っている。
こんな大胆な脚本、よくもまあ実現させたものである。
鬼アレンジで魅せるビートルズの鬼楽曲が凄い!
ジャックは誰も知らないのをいいことに、次々とビートルズの名曲を“そのまんま”パクりまくる。
しかし、ビートルズの楽曲ってさ、曲名もメロディもほとんど知っているけど、実際に正確に歌えと言われたら非常に厄介だよね。
たとえば「Eleanor Rigby(エリナー・リグビー)」なんか、メロディもコード進行も容易く思い出せるけど歌詞はすげえうろ覚えだったりする。
ジャックもそのへんで非常に苦労するのがとてもリアルで面白いのだ。
有名な曲でもそんなハッキリ覚えているわけないし、練習する際に何度も「あれ? この曲って歌詞どんなだっけ?」なんて悩みまくるジャック。
しかも存在しないバンドの曲なので、調べても誰も教えてくれないし、答えは自分自身の記憶の中にしかないというね。
盗作するのもいろいろ大変なんだなあ。
で、そんな苦労をしながらもジャックによって奏でられるビートルズの数々の名曲が、この時代ならではのアレンジで表現されるのだがそれがまた素晴らしくカッコイイ。
ジャックとしての解釈で再構築したビートルズの楽曲は、新鮮なのにオリジナルの感動をもしっかり残している絶妙なサウンドに仕上がっているのだ。
まとめ
ビートルズの楽曲で多くのヒットを飛ばしてしまう順風満帆な盗作男ジャックだが、彼は真面目な男ゆえに自分のやったことへの葛藤があるし、彼を唯一理解してくれるガールフレンドとも溝が出来てしまうしでもう大変。
ガールフレンド役は『シンデレラ』(2015)で俺のハートを撃ち抜いたリリー・ジェイムス嬢で、健気にジャックを慕う姿が可愛すぎた。
音楽映画であり、異世界ファンタジーであり、ラブコメディでもある、至れり尽くせりのエンターテインメント作品ではあるが、もしかしたらラストの展開には賛否があるかもしれない。
ラブストーリーとしてのハッピーエンドを望むか? 異世界ファンタジーとしてのハッピーエンドを望むか? という鑑賞者の好みにもよるかもしれないが。
俺の個人的な評価としてはこんな感じである。
100点満点!!!