ローデッド式デヴォンクラッチ

映画ファン最後の良心デヴォン山岡が映画を楽しみまくって感想を書きます。

高級SFに見せかけてまさかの超娯楽エンタメ『アド・アストラ』が最高だった

こういった宇宙モノSFに漂う孤独と絶望が大好物なので、制作サイドが“宇宙で『地獄の黙示録』がやりたかった”感満載のミーハー大作『アド・アストラ』は絶対に映画館の暗闇で体験したかった。

宇宙で人間が絶望する映画と言えば、過去に『2001年宇宙の旅』『エイリアン』『ゼロ・グラビティ』『サンシャイン2057』『イベント・ホライゾン』『ミッション・トゥ・マーズ』などいろいろあるが、本作はこれらの作品の面白いところを全部足して『アルマゲドン』で割ったような映画である。

 

つまりただの『アルマゲドン』。

 

クラシックを彷彿とさせる美しく感傷的なピアノの旋律を劇伴に、表向きは荘厳な宇宙空間と落ち着いた人間ドラマが描かれてはいるが、やっていることはアルマゲっている。

監督がマイケル・ベイで音楽がエアロスミスであれば容赦なく『アルマゲドン2』になっていたであろうムチャクチャな内容なのだ。

 

 

地球外生命体の存在を信じるあまり、国も家族も故郷も捨ててあてもなく20年も宇宙をさまよい続けるトチ狂った父親(トミー・リー・スペースカウボーイ・ジョーンズ)を、感情がほとんど欠落した精神病息子のブラピが探す。

いくつもの星と星を行きかう宇宙規模の特大スケールな設定なのに、展開するのはサイコな親子間の小ぢんまりとした個人的ストーリー。

しかも、父親捜しとまったく関係ないヘンテコな事件が次々と起こり、ブラピの周囲のクルーがバタバタと死にまくるのだ。

一見して深みと高級感のあるSF映像詩のような印象なので、コアな芸術作品に触れるかのように身構えるが、畳みかけるぶっ飛んだオモシロ事件と無意味でショッキングな惨劇の連続に観客は少しづつ気付き始める。

これはもしや超娯楽エンタメなのではないか?



 

主役のブラピは何事にも動揺しない鉄の心臓を持つ男。

そんな彼が軍部の最重要ミッションとして父親を捜す任務に就くのだが、そんな重要人物であるブラピをサポートする連中が全員そろってマヌケだらけ。

死神然としたブラピさんが、意図せず周囲のモブ連中をどんどん死なせる展開は『ジョー・ブラックをよろしく』へのリスペクトかもしれない(そんなわけねー)

死に要員の宇宙船クルー、略奪され要員の軍隊、裏口侵入要員のセキュリティがザルなロケット発射基地。

すべてがエンタメするためのご都合主義的要素になっていて、ツッコミどころが満載である(いい意味で)

美術的にハイセンスな映像とか、セリフ少な目で深刻そうな表情だけで追うキャラの心情とか、必要最低限なBGMとか、表向きの高級感にはそぐわない内容。

つまりは、雰囲気だけでなんとなく「美しく壮大なSF大作!」なんて感想を言ってしまおうものなら、思いっきりアホがバレてしまうようなハッタリ映画なのであった。