人生で一度もグッチを身に着けた事の無い俺が、映画『ハウス・オブ・グッチ』に大興奮したワケ
当然のように俺は「GUCCI」のアイテムなど一度も所持したことはない。まったくお恥ずかしい限りである。
「いや高級ブランドなんかに興味ねーしw」などと鼻で笑っているが、要は経済的余裕が無いから手が出ないだけで、そもそも高級ブランドに「高級ブランド」であること以外の価値を見出せないというか、要はデザインの良さがわからない。
あと、そんなご身分じゃないというのも興味のない原因だ。
立場的に「高級ブランド」に身を包むことが一種の “武装” の役割になる人もいるだろうけど、ザンネンなことに俺は違う。
で、以前の俺であれば 「“高級ブランドを身に着けて自分を着飾る” なんて心が貧しいよ」とかなんとか詭弁を言っていたものだが、この映画を観たあとはガラッと変わるから驚き。
「GUCCI」、欲しいな。
そのデザイン的な魅力などまったくわからないが、とにかく「GUCCI」という世界観に惹かれてしまい、これはそのうち絶対に手に入れなければならん! という使命感と無意味な興奮に打ち震えた。
「GUCCI」、その甘美な響き。
他のブランドなどにはじぇんじぇん興味がないが、「GUCCI」は別!
なぜか?
もちろん “映画が面白かった” という短絡的な理由からである。
裏切りと確執のサスペンス展開が面白すぎる!
世界的に有名なファッションブランド「GUCCI」の創業者一族に起きた、愛憎にまみれたお家騒動(実話)を描くこの作品。
御大リドリー・スコット監督が、とんでもない迫力での映像化を実現しており、一瞬たりとも目が離せないスリル満点のサスペンスドラマとなっている。
「GUCCI」創始者の息子マウリツィオ・グッチ(アダム・ドライバー)とセクシーすぎる運送業事務員パトリツィア(レディー・ガガ様)との微笑ましいラブストーリーから始まり、ドロッドロの権力争い&嫉妬まみれの地獄展開を見せるクライマックスまで中だるみ一切なし。
当の「GUCCI」様にとってブランドイメージに大きく関わりそうな泥沼っぷりで、関係者もこの作品にあまり肯定的ではないとの噂も聞くが、いやこれはもう逆にブランドの魅力がかなりアップしたのではないだろうか。
マウリツィオが受け継いだ「GUCCI」の経営権を、豪胆な妻のパトリツィアが支配的に動かし、他のグッチ一族を汚い手で排除していくという陰謀めいた物語だが、すべてパトリツィアの「愛」と「正義」からくる行動として描かれているところが大きい。
もしパトリツィアが、単にグッチの権力や金を自分のモノにしたくて行動していたのであればここまで重厚な物語にはならなかった。
パトリツィアの強引なグッチ家改革は、彼女の信念に基づいており、自分自身が生き延びるために必要な行動だったゆえに、そこにパワフルな説得力が生まれるのである。
そんな彼女にいいようにコントロールされるマウリツィオもまた、自分の立場や商才の無さに苦悩する、その繊細さが同情をそそるキャラクターで良かった。
2人の心温まるラブストーリーからはじまり、グッチの経営をめぐるサスペンスと憎しみからの復讐へと至るドラマチックな「GUCCI」の過去。
デザインとか品質とかこだわりとかブランドの魅力関係なく、「GUCCI」が辿った衝撃の舞台裏を知ってしまった俺に、もはや “「GUCCI」を身に着けない” という選択肢はなくなってしまったのであった。
超実力派の豪華俳優陣がたまらん!
実力派の俳優たちが集まってギリギリの緊張感で演技する様子を眺めるのは、まさに映画の醍醐味である。
この場合の “ギリギリの緊張感” というのは、思惑の違う者同士のコミュニケーションにおける駆け引きのこと。
タランティーノ作品でよく見る「一触即発の敵との対話」とか、観てるこっちが冷や汗かいちゃうほど興奮する。
『ハウス・オブ・グッチ』には、そういった心地よくも刺激的な緊張感が始終漂っていてたまらん。
アダム・ドライバー演じるマウリツィオとレディ・ガガ演じるパトリツィアとの夫婦間の確執や経営陣とのやり取りはスリル満点だ。
ちなみに、本業がミュージシャンであるレディ・ガガの演技、マジで素晴らしい。
この作品で、ガガ嬢は20代から40代後半までの30年にもわたるパトリツィアの姿を演じており、もちろん高度なメイク技術やファッションなどの助けもあるが、見事に演じ分けていた。
メイクの凄さで言えば、才能は無いが野心だけはある従兄のパオロは、見た目デブハゲの冴えないオッサンだが、演じているのはなんとジャレット・レトで、6時間かけて特殊メイクを施しているとのこと。つまり面影ゼロ。
さらに「GUCCI」経営のトップとして手腕を見せた叔父のアルド役のアル・パチーノの演技が相変わらず大迫力で凄い。
最初にマウリツィオとパトリツィアとの結婚を反対する父親、「GUCCI」創業者のロドルフォには、久々に拝めたジェレミー・アイアンズ御大が扮しているが、これまた上品さと貫禄に満ちた存在感でたまらないのである。
この豪華賢覧な出演者陣、愛憎と裏切りの地獄展開、そして「GUCCI」ならではのゴージャスな舞台設定、そのすべてが俺みたいな貧乏人にとって未知のエンタテインメントとなり、贅沢で極上な159分が堪能できるのだ。
老いてますます盛んなリドリー・スコット監督、その抜け目の無さ、感覚の鋭さはまだまだ健在、というかさらに進化してさえいるからマジで見逃せない。
お願いだから早く『プロメテウス』三部作のラストを撮ってくれ!