ロマンチックな老夫婦のグロテスクな欲望! 究極のくそったれホラーエンタテインメント『X エックス』!
タイ・ウエスト監督が、昨今の高齢化社会の首元に鋭いドスをぶっさす究極のサイコホラー『X エックス』を観て心から感動した。
古き良き80年代スラッシャーホラーへのリスペクトに満ちていて、いろんな作品のネタやオマージュがあって、ホラー大好きな人には、オモシロ怖くてめちゃくちゃエロくて超刺激的なエンタメとなっている。最高だ。
ハッキリ言って何を書いてもネタバレになんかならないほど、ストレートかつシンプルなストーリーなのだが、やっぱ実際に観て、その刺激的なシーンを堪能して欲しいので内容については割愛し、感想だけ書く。
物語の舞台は1979年のテキサスのクソ田舎。
「調子に乗った若者たちが田舎でサイコに殺される」という『悪魔のいけにえ』方式のオーソドックスな導入ながら、根底にあるテーマやメッセージが身に沁みるというか、めちゃくちゃ社会派で考えさせられた。
ポルノを規制する連中はいつの時代にもいるもので、作中のテレビでも権威ある立場のキリスト教徒らしき人物が「性を楽しむ乱れた若者たちを許すな!」みたいな演説を行っており、特に高齢者(しかも田舎の)はセックスに対して異常なまでの嫌悪感を持っていることが示唆される。
我々が生きる現代社会でも、一部のセックス嫌悪派が「性風俗産業」への差別を善行のように行っており、セックスワーカーたちが「悪」とみなされるような風潮が続いている。
つまり1979年の空気感が、いまでも十分なリアリティをもって鑑賞者にのしかかっているのだ。
ずっと昔から、残虐な暴力行為や歪んだ女性嫌悪を生み出す要因のひとつとして「社会的な性的抑圧」が関係しているという意見も聞くが、この作品はまさにドンピシャでそれをホラーエンタメとして落とし込んでいるから凄い。
この『X エックス』は、暴力描写や性的描写で攻めているのはもちろん、良識や道徳を武器に性的抑圧を行ってきた大人たちが今まで見て見ぬふりをしていた「性的欲求や性的快楽の必要性」をしっかり突き付けているから凄い。
で、この作品、そのタイトルや作風から、18禁映画かと思わせておいて実はレーティングは「R15」である。
若者たちが鑑賞できるよう頑張ったとは思うが、ここはひとつタイトルにちなんで「X指定(R18・成人映画)」で公開する、といった思い切りもアリだったのではないか。
また、この映画には一部、ボカシが入るシーンがあり、そこに関してはもう呆れた。
性器を隠すことで「何か正しい事をしている」と思いたいんだろうけど、この作品のテーマでもある性表現への嫌悪を、映画配給側がやってしまっていることに絶望的な気持ちにならざるを得ない。
昔『ターミネーター』という映画の序盤で、未来から1984年に降り立ったターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)が全裸でブラブラ歩くシーンにおもむろにボカシが入ってめっちゃ笑った。
殺人マシーンの股間にボカシ入れる奴の神経どうなっとんねん と。
あれから30年以上経つのに、いまだに性器にボカシ処理を入れている我が国の芸術感覚。
別に性器が見たいというわけではなく、単純にヴィジュアルとして美意識に欠けているし、そもそもボカシなんかに何の意味もないってことに誰も気づいていないことに惨憺たる気持ちになるのだ。
しかし、この作品は純粋なエンタテインメント作品であり、攻めたテーマやメッセージは添え物に過ぎないのも事実。
常に半裸でそのへんをウロウロする若者たちのエロさと、そんな彼らが次から次へと容赦なく殺される爽快感は、まさにホラーの醍醐味。
俺自身が欲求不満だからこそ、乱れた若者に鉄槌を下す老夫婦たちに感情移入せざるを得ないのも、俺が高齢者側の人間であることの証明なのだ。つらい。
あと『X エックス』は圧倒的に高齢者の解像度が高いというか、単に若者にイライラしているとかではなくて、「老人だって人間なんだ!」という悲痛な叫びをもって若者を殺していることに好感を持つ。
「老い」という逃れられない運命を前にした絶望と、失われた「若さ」への羨望が、残虐な暴力行為へと駆り立てるという流れはめちゃくちゃ共感できるし、またそれを本人たちが自覚しているのもロマンチック。
この殺人鬼老人は、めちゃくちゃロマンチックゆえに歪んでしまったと言えるので、そこに哀愁も感じることができるのはキャラとして強い。
恐さと面白さに身もだえしながらも(「若さ」の価値は、それを持っている時には気付かないものなんだなあ)などとしみじみと考えさせてしまう深い脚本が見事であった。
傑作。
ところで、ここ数年「老人が怖いホラー映画」が多すぎると感じる。
これもまた高齢化社会ならではで、なんか悲しくなる。
もう若者たちが遊び半分で殺し合う『スクリーム』みたいなスラッシャーが流行る時代じゃないのかもしれない。